行政書士の報酬額は、自由に決めることができます。
しかし、そうは言っても、以下のようにお悩みの方もいらっしゃるのではないでしょうか?
- 「自由って言われても、どう決めればいいの?」
- 「独立開業したばかりで、最適な報酬額の決め方が分からない…」
この記事は、そんな方に向けて書きました。
士業専門Web集客コンサルタントの、大林亨輔(おおばやし こうすけ)です。
報酬額をいくらにするか?は、売上を安定して伸ばしていくためにも、とても大事なことです。
ここでは、行政書士の価格設定の重要性と、報酬額の7つの決め方について解説します。
報酬額の設定が重要な理由×3
①売上が頭打ちになってしまうから
事務所の売上は、以下の式で計算できます。
一点、行政書士の業務は、税理士の税務顧問のように「毎月顧問料をいただける」ようなものが少ないので、リピート率(継続率)はそこまで高められないと考えたほうが無難です。
そうなると、もし単価(報酬額)が安いと、ひたすら「客数」を増やさなければならなくなってしまいます。
しかし、行政書士をはじめとする士業のWebマーケティングの性質上、薄利多売は難しいのです。
なぜかと言うと、行政書士は、労働集約型のビジネスだからです。
報酬額を安くして売上を伸ばそうとすると、単純に「労働時間を増やす」しかなくなってしまいます。
人間に与えられている時間は、1日24時間、1年365日。
時間をこれ以上増やすことはできませんし、エネルギーも限られています。
このように、安すぎる報酬額だと、客数に依存してしまい、結果、売上が頭打ちになってしまうのです。
だからこそ、報酬額の決め方は、よく考える必要があります。
②報酬額が、顧客の質を左右するから
必ずではありませんが、低価格を打ち出すと、顧客の質は悪くなりがちです。
- メールや電話のやりとり・言葉遣いが横柄だったり
- 少しでも不手際があるとクレームを言われたり
特に、値引きを交渉してくるような顧客は、相手にしないほうが賢明です。
逆に、値段を気にせず依頼してくれるお客様は、本当に仕事がしやすいもの。
適切な報酬額を設定できれば、売上はもちろん、顧客の質も上がっていきます。
③報酬額が、サービスの質を連想させるから
人間の心理として、「価格が安い=質が低い」「価格が高い=質が高い」と思われがちなものです。
- 高いものには、それなりの価値がある
- 値段が高いほうが、失敗する可能性が低い
このような心理、あなたにもきっとあると思います。
もちろん、「開業したばかりなので、最初は安価にして実績を作り、あとから値上げしていこう」のように、未来を見据えて安価に設定するのはアリです。
行政書士の報酬額の決め方:7つの方法
以下、7つの方法のメリット・デメリットの一覧表です。
メリット | デメリット | |
---|---|---|
①報酬額統計を参考にする | 根拠のある報酬額に設定できる | 価格競争に陥りやすい |
②他事務所の報酬額を参考にする | その地域の市場に合わせた報酬額に設定できる | 価格競争に陥りやすい |
③他事務所の報酬額+20%にする | 利益を出しやすくなる | 質の高さを伝えられないと、集客できない |
④原価+利益で計算する | 自分が望む報酬額に設定できる | 高すぎると、集客にマイナスになる |
⑤最低価格でスタートし、あとで値上げする | ホームページを改善しやすくなる | 顧客の質が下がる場合がある |
⑥複数の価格帯を用意する | 低価格と高価格のいいとこ取りができる | 3つのプランを考えるのが手間 |
⑦2つ以上のサービスをセットにする | 顧客単価をアップできる | どのサービスをセットにするか?工夫が必要 |
この7つを、順番に解説します。
①報酬額統計を参考にする
- メリット:根拠のある報酬額に設定できる
- デメリット:価格競争に陥りやすい
日本行政書士会連合会が出している、「報酬額統計」というものがあります。
報酬額の決め方に迷ったら、まずはこの統計が参考になります。
各業務ごとの「平均」「最小値」「最大値」「最頻値」が掲載されています。
※「最頻値」とは、「もっとも多く出てくる値(つまり、相場に近い報酬額)」という意味です。
主な業務の報酬額の相場(一例)(単位:円)
平均 | 最小値 | 最大値 | 最頻値(相場) | |
---|---|---|---|---|
遺産分割協議書の作成 | 68,325 | 3,000 | 1,180,000 | 50,000 |
会社設立 | 93,878 | 3,000 | 500,000 | 100,000 |
建設業許可の申請(法人・新規・知事) | 137,618 | 35,000 | 346,500 | 150,000 |
配偶者ビザ | 89,033 | 3,500 | 200,000 | 150,000 |
帰化申請 | 177,500 | 44,000 | 500,000 | 200,000 |
最小~最大まで、非常に幅が広いことが分かると思います。
そのため、この値は、あくまで参考程度に捉えておくとよいでしょう。
②他事務所の報酬額を参考にする
- メリット:その地域の市場に合わせた報酬額に設定できる
- デメリット:価格競争に陥りやすい
これは、「市場価格追随法」とも呼ばれます。
行政書士の報酬額の相場は、地域によっても違います。
例えば、東京23区と地方を比べると、やはり東京のほうが相場は高めです。
周囲の行政書士事務所のホームページに載っている料金表を参考にすることで、その地域に合わせた報酬額に設定しやすくなります。
一点、事務所によっては、「●●円~」のように最低価格しか載っていなかったり、「他、実費を請求します」と書かれていて、総額が分かりづらいこともあります。
そのため、料金表の数字だけを見て判断しないよう、注意しましょう。
③他事務所の報酬額+20%にする
- メリット:利益を出しやすくなる
- デメリット:質の高さを伝えられないと、集客できない
上述の方法2の応用版です。
人間は、「価格が高いほうが、質が高い」と感じる心理があります。
そこで、ライバルより少し高い金額にして、質の高さをアピールするのです。
もちろん、何の工夫もせずに、ただ値段が高いだけでは、集客できません。
- そもそものサービスの質を高める
- お客様の声を増やす
- 社会的証明を載せる(例:本を出している、など)
これらの工夫をして、質の高さを伝えられれば、他の事務所より多少値段が高くても、集客できるようになります。
これについては、以下の記事も参考になるかと思いますので、合わせてご覧ください。
>> コピーライティングのコツ。「すごそうに見えるか?」 という考え方が大事。
④原価+利益で計算する
- メリット:自分が望む報酬額に設定できる
- デメリット:高すぎると、集客にマイナスになる
これは、「コストプラス法」とも呼ばれます。
- 人件費(自分の人件費も含む)
- 事務所の家賃
- 広告費
「これらの必要経費+利益」で報酬額を決める、という方法です。
行政書士には「(物理的な)仕入れ」がないので、事務所によって大きく異なるのは「人件費」でしょう。
あなたが目指している売上(年収)によっても、人件費は違ってきます。
まずは、「自分の時給を仮決めして、業務にかかる時間を掛け算して決める」でもOKです。
⑤最低価格でスタートし、あとで値上げする
- メリット:ホームページを改善しやすくなる
- デメリット:(安い報酬額に惹かれることで)顧客の質が下がる場合がある
この方法には、以下2つの良いところがあります。
1.ホームページを改善しやすくなるから
仮に、相場より高い価格に設定して、ホームページから集客できなかった(問合せが来なかった)としましょう。
この場合、「ホームページの内容(文章)が悪かったのか?」「価格が高すぎたのか?」など、複数の原因が考えられますよね。
原因が複数あるということは、「どれが本当の原因なのか?判断が難しい」ということでもあります。
一方、もし「自分がつけられる最低価格」でスタートしたら。
ホームページの反応が悪かった時に「報酬額以外」の部分の改善に専念できますよね。
このように、「自分がつけられる最低価格」にすることで、ホームページの改善がしやすくなります。
2.士業ビジネスの性質上、後から値下げしづらいから
仮に、相場より高い価格に設定して、1件でも受任できてしまったとしましょう。
しかし、その後、ホームページからあまり問合せが来ない…。
このとき、もし値下げしたとすると、すでに1件受任しているお客様から見ると、いい気持ちはしませんよね。
物理的に形のあるモノであれば、「大量生産で原価を抑えることができたので値下げします」など、理由がたちやすいのですが…
士業というビジネスは、労働集約型なので、後から値下げするのは納得いかない人も出てきてしまいます。
であれば、最初から最低価格にし、徐々にあげていくほうが、納得してもらいやすい、というメリットがあります。
⑥複数の価格帯を用意する
- メリット:低価格と高価格のいいとこ取りができる
- デメリット:3つのプランを考えるのが手間
「事務所によって報酬額の設定がマチマチで、いくらにすればいいか判断できない…」
そういう時にお勧めなのが、「複数の価格帯を用意する」ことです。
例えば、建設業許可の報酬額を設定する場合。
以下のように、「エコノミー」「スタンダード」「プレミアム」の3つの価格帯を設定するのです。
こうすることで、安価なライバルにも対抗しつつ、上位価格帯もあることでサービスの質の良さもアピールできる、というメリットがあります。
⑦2つ以上のサービスをセットにする
- メリット:顧客単価をアップできる
- デメリット:どのサービスをセットにするか?工夫が必要
これは、「抱き合わせ価格」とも呼ばれます。
例えば、「建設業許可」単体ではなく、「建設業許可+会社設立」のセット申込みなら、会社設立の報酬額を50%オフにする、のようなイメージです。
セットにすることで、お客様側も安価に依頼でき、事務所側も顧客単価をアップできるので、一石二鳥の方法と言えます。
(余談)行政書士の報酬額の決め方が自由になった背景
行政書士をはじめ、士業の報酬額の決め方が自由になったのは、2000年に入ったあたりのことです。
それまでは、各士業に、報酬基準が定められていました。
しかし、独占禁止法と照らし合わせると問題になるとされ、自由化されたのです。
料金表の見せ方(作り方)も大事
行政書士は、報酬額を掲示する義務があります。
報酬額の提示義務
料金表は、「必ず見てもらえるコンテンツ」とも言えます。
(あなたも、価格を見ずにネットで買い物することって、ほとんどないと思います)
必ず見てもらえるからこそ、料金表の見せ方(作り方)次第で、ホームページの集客よくも大きく変わってくるのです。
効果的な料金表の作り方については、以下の記事でも解説していますので、ぜひご覧ください。
参考になれば幸いです。